『クラッシュ』

クラッシュ [DVD]

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アメリカという国は今でも人種差別があるのだなあと再認識させられた。もちろん、日本には差別がないなんて言うつもりはない。アメリカは多人種国家であるがために差別が分りやすいというだけの話だ。
この映画は人種差別をベースにして作られているが、差別を糾弾することを目的とはしていない。差別社会に生きる人間の多面性を描いているのである。
白人が非白人を差別するのは白人が優秀だからなどという観点はこの映画にはない。非白人に対する恐怖が白人の中にあって、その防御が差別という形になって現れるのである。差別の理由はほかにもあるけれど、「恐怖」が一番なのである。
差別がメインの映画ではないので差別の話はこれくらいにして、話を本題に戻せば、この映画のポイントは「人間の多面性」である。この映画には突出した主人公はおらず、10人くらいの人物が多少の関係性をもって登場する。そして、最初、悪人っぽく描かれていた人が後でいいことをやったり、正義感のある人が悪いことをやったり、意気地がないと見えてた人が毅然と行動したり、つまり、一人の人間の中に正と邪、善と悪、優しさと冷たさなど相反する性質が存在していることを表現していくのである。その手法は、映画の後半になるほど単純化していく。単純化することは観客に映画の真意を伝えやすくすることであり、前半は難しそうに思えた映画が、後半ではエンタテインメントな映画に近づいていく。その単純な反転はほとんど全ての主要登場人物において発揮されるので、相乗効果として感動するか、「ちょっとワザとらしくない?」と一歩退くか、人によって違うだろう。そうだとしても、よく練られた脚本であり観ても損はしない。