飲み屋

金曜日、2時間食べ放題飲み放題の一次会が終わると、一人で別の店に行った。以前、ある大学教授に連れられていった、教授の教え子がやっている店だ。スナックというには喧しさも俗悪さもない。バーというには高級さがない。何にもないのでガランとした倉庫のようにも見える。
僕は普段、一人で外で飲むことがない。毎日酒は飲むけど、外で飲むこと自体少ないし、まして外で一人で飲むことは全くない。でも、この店は最初に来たとき、「ああ、この店なら一人で飲みにきてもいいな」と思った。どこが気に入ったかというと、いつも他にお客がいないということと店もマスターも飾り気がないということだ。
初めてきたとき、マスターに「なぜ会社やめたんですか?」と僕は訊いた。マスターはたぶん30代後半で、社会人学生1年である。10年勤めた某ドラッグストアチェーンを辞めて水商売を始めた人だ。
マスターは何度も訊かれた質問だったらしく、「反対に訊きますけど、なんで仕事やめないんですか?」と切り返してきた。僕は言葉に詰まって返事ができなかった。「お金のため」「生活のため」という答は答になっていないと思った。少なくともマスターにとって、「お金のため」という答は辞めないことの理由にはならなかったのだろう。