『華氏911』

GyaOで視聴。(放送期間は9月1日まで。どうせなら9月11日までにすればいいのに)
ニュースは事実を報道するものだけど、社会で無数に起こっている事件や事象の中から「何」を報道するかを選び、それを「どのように」表現するかということは、報道する者の意見や思想を表明することと同じである。
華氏911』はドキュメント映画であり、事実を積み重ねて作られているところはニュースと同じであるが、スクリーンに映される映像の断片はすべてマイケル・ムーア監督によって意図的に選ばれたものであり、ニュースよりもっと監督の意見や思想や批判精神が鮮明である。
事実を集めて作品となったこのジグソーパズル的映画は、ピース自体は興味深いものが多い。中には事実の意味よりも事実が観客にもたらす感情を狙って選ばれたピースも含まれており、わずかに胡散臭さを感じることもある。それに、小さな事実の裏に大きな謀略(ブッシュ大統領や大企業が自分たちの利益のためにイラクに戦争を仕掛けたということなど)があることを示唆しているが、それについて驚かされもする一方、裏付けのない小さな事実をもって観客を誤った認識へ誘ってはいないか疑いそうになることもある。
でも、そういう胡散臭さや疑念はあるにしろ(とはいっても、ほんのわずかです。念のため)、この映画が暴こうとする社会の矛盾(誰も好きで戦争に行きたくはないが貧困層にとっては軍に「就職」するしかない現実など)や戦闘が兵士に与える肉体的精神的ストレスやイラク国民の惨状は事実であり、それは「謀略」があろうとなかろうと悲劇であることに変わりはない。