『武士の一分』

武士の一分 [DVD]

武士の一分 [DVD]

同じ山田洋次監督の『隠し剣 鬼の爪』は観ていないが、少なくともその前作である『たそがれ清兵衛』と全く同じテーストの本作。柳の下の二匹目(あるいは三匹目?)のドジョウはたいそう面白うござんした。
ストーリーは至極単純。というより、こうなるんだろうなと思うとおりに話が進む。だからといって、それが退屈ではない。こうなってほしいという気持ちがドンピシャ満たされ、そのストレスのなさが快感である。


主人公は禄高三十石のお毒見役下級武士三村新之丞。しかし、最初画面に出てくるのは新之丞ではなく、キムタクである。どう見てもキムタクであって、役どころの新之丞ではない。日ごろテレビに出ているキムタクが、武士の恰好をしてお芝居をしているようにしか見えない。こりゃイカンと思った。キムタクを見たくてこの映画を観る人にはいいかもしれないが、映画を観たい人間にとってはキムタクのイメージがこびりついた映画は観たくない。
僕が映画を撮るとすれば、主人公は新人を配したいと思う。有名な役者を主役に据えれば、多かれ少なかれその役者のもつイメージを拭い去ることができないと思うからだ。
しかし、本作の主人公は徐々にキムタクから新之丞に成っていくのである。それにつれて、だんだんと映画に引き込まれていく。観れば分るけど、本当に分りやすい、はっきり言えばベタなストーリーなのに、最後は泣きそうになってしまった。エピローグで、中間(下男)の徳平が「飯炊き女を雇ってもいいでがんすか?」と言った瞬間、観客は結末が予想できただろう。そして映画は、ほどよいタメを踏まえて、観客の期待に違わないオチへと行き着く。周りに誰もいなければ僕は泣いてしまったと思う。