「世界遺産」アントニオ・ガウディ

ガウディが生きていた頃、ガウディの建築は施主に受け入れられなかったり、市民から揶揄されてもいたらしい。なんと見る目がないのだろう、なんて言うのは簡単だけど、そう言えるのは、ガウディが評価された現代に生きているからだろう。多かれ少なかれ芸術を見る目は周囲の評価を元に形成されていくものであり、大多数から否定された作品を正当に評価できるほどの目を、周りに影響されることなく育むことは容易ではない。例えて言えば、『バック・ツー・ザ・フューチャー』で過去に遡った主人公がチャック・ベリーを演奏したとき、ロックという音楽を知らない当時の観客がポカンとした顔をしていたことと同じである。そういう意味では、ガウディの建築は時代の先を行っていたと言える。

ガウディの魅力は不定形の曲線にあると思う。歪んだり傾いたりする曲線は、見る者の頭の中で正確に認識することが困難である。例えば長方形があったとする。縦と横の長さが分れば、再現することは簡単である。縦の長さと横の長さの2つの数値を覚えればいいだけだから。でも、その矩形が直線ではなく歪んだ曲線で構成され、直角ではない角度の角を持っていたとすれば、それを再現することは容易ではない。その矩形を再現するためには、その歪みや直角とは違う角度を覚えなければならない。たった二つの数値を覚えることと比べれば、何倍何十倍もの労力が必要になる。そういう労力が必要であるところにガウディの魅力がある。もちろん、そのような労力を厭うことなく作品に対峙したくなる魔力がガウディの建築にあるのは言うまでもなく、ただ単に分りにくいから面白いわけではない。