沢木耕太郎が連載している朝日新聞の映画紹介欄(映画評論というべきか?)が好きだ。これを読むと、紹介された映画を観たくなる(映画館で映画を観ることがほとんどないので、実際はレンタルになったら借りたいと思うだけだが)。
100点満点の映画というのはなかなかない。どの映画にもたいてい欠点やツッコミどころの一つや二つはあるものだ。自分が観た映画の感想を書こうとすれば、そんな欠点をあげつらったりしてしまいがちである。なぜなら、そういうのを指摘するのが簡単だからだ。
でも、「銀の街から」は、基本的にはその映画のいいところを紹介する。きっとその映画にはマイナスポイントもあるだろうに、その部分には軽く触れる程度だ。
例えば、よいところが90点あるけどマイナスポイントが20点な映画があったとする。プラスとマイナスを相殺すれば70点になる。もう一方にはマイナスポイントがなくて70点の映画があったとする。両者を比較してどちらを見たいかと言えば、前者だと思う。前者はあくまで90点の映画であり、ただ、マイナス20点の弱点を持つにすぎない。
平均するとかプラスとマイナスを均すとか、そういうやり方で映画を評価してはならないと思う。そしてそれは、映画の評価だけに限らない。人間の評価も同じだ。90点のいい面を持ちながら20点の欠点を持つ人間と欠点がなくて70点の人間は同じではない。極論すれば、100点と評価するほど好きな人が100点イヤな面を持っていたとしても、悪いところのない70点の人間より魅力的に感じるということがあるだろう。人間とはそういうものだと思う。
話を「銀の街から」に戻す。今回紹介された映画は『キサラギ』という映画である。登場人物は5人の男らしい。もう、その時点で僕はこの映画を観たくなってしまう。登場人物がみんな男だというのがイイ。いや、僕は別にその卦はないので誤解しないでほしい。僕が言いたいのは、男だけしか登場させない作者の矜持を感じるのである。登場人物が5人いたら、ナントカレンジャーみたいに、ふつうなら一人くらい女性を登場させると思う。でも、この映画にはそれがない。「俺は色気に頼らない。男だけで面白い話を作ってみせる」という作者の決意がそこにあると思う。
ちなみに、『キサラギ』に出ている香川照之の、『ゲド戦記』での「ウサギ」の吹き替えはとてもよかった。『ゲド戦記』は画が地味すぎる映画だけど、香川の吹き替えは実にすばらしかった。彼が出てくる映画を観たことはないけれど(中国映画『鬼が来た!』で高い評価を受けたのは知っていたけど)、『ゲド戦記』での吹き替えは、僕にとってこの映画の中の一番の掘り出し物なのである。